全国から、時には海外からも、多くの鍼灸師が鍼治療センターを訪れてくださいました。 来院された鍼灸師が患者さんのカウンセリングを行い、治療計画を立てたうえで、私と相談しながらツボの位置を確認し、施術にあたります。 ひとつのツボを使用するごとに効果を検証し、再度相談して次の一手を決める——その繰り返しでした。
通常の治療院ではなかなか得られない、非常に贅沢な環境です。
鍼灸師は普段、一人で施術を行うことが多く、どうしても思い込みや独りよがりになりがちですが、複数の鍼灸師でリアルタイムに施術を行い、お互いに確認し合える環境は、私を含め、参加したすべての鍼灸師にとって大きな学びとなりました。

haripo式もこの過程でさらに洗練され、鍼灸専門学校を卒業して1年目の鍼灸師でも、初参加で同様の効果を出せるほどになっていきました。
施術の評判は口コミなどで広まり、鍼治療センターには想定を上回る数の予約が入り、日々多くの患者さんが訪れるようになりました。 5人の鍼灸師が5人の患者さんを同時に担当し、私がそのすべての施術を監修するという状態が、朝から晩まで続く日々が続きました。
休憩を取る間もない状況が続き、ある日、北斗病院の健康診断を受けたところ「脱水症状」と診断され、大笑いしたこともあります。それほどまでに集中して取り組んでいたのが、当時の実情です。
そこで、自分たちの体調管理も重要だと考え、施術後には北海道ホテルのサウナで心身を整え、帰路につくという流れをルーチン化しました。
帰りの道中は、症例検討を中心とした実践的な振り返りの時間となり、3時間にわたって議論を重ねる中で、それぞれの技術や理解が着実に深まりました。体力的には大変でしたが、非常に有意義な時間でもありました。
施術させていただいた中には、漫画『フラジャイル』に登場する円というキャラクターのモデルとなった臨床検査技師さんもいらっしゃいました。そのご縁もあり、作中に鍼のシーンが一瞬描かれている場面もあります。

こうした活動が評価され、NHK北海道にも取材していただきました。 施術風景を撮影している最中、一手目や二手目で効果が出なかったとき、カメラが私の顔にグーッと寄ってきたシーンは今でも忘れられません。その次の一手でしっかりと効果が現れ、ほっと胸を撫でおろしたものです。
活動の場は病院内にとどまらず、北斗病院を中心とした地域全体へと広がっていきました。 老健施設では、利用者さんの便秘が大きな課題となっていることを知りました。便秘があると攻撃性が強くなったり、夜間の徘徊が増え、職員さんたちの負担も大きくなると聞きました。 「便秘を解決できればノーベル賞ものだよ」と施設長に言われたことも印象に残っています。
そこで、下剤や浣腸でも改善しない、いわば便秘のチャンピオンとも言える9名に対し、鍼施術による効果検証を行いました。 使用したツボは「上巨虚」の一穴のみ。 その結果、9名全員が施術から24時間以内に排便が見られるという驚くべき成果が得られました。
その他にも、近隣大学の体操選手や、地元サッカーチーム「スカイアース」の選手たちへの施術も行いました。 また、元コンサドーレ札幌の曽田雄志さんのご協力を得て、元日本代表選手を含むプロサッカー選手への施術を行い、パフォーマンス向上の可能性についても検証しました。
加藤先生の紹介で、札幌の病院の職員さんたちへの施術も行うなど、活動範囲はどんどん広がっていきました。
こうした現場を通じて、医療機関が抱える課題をより具体的に知ることができ、鍼施術が意外なほど多くの場面で貢献できることを実感しました。 病院が不得意とする領域に対し、鍼灸が補完的な役割を果たすことで、医師からの信頼も深まり、医療との連携が進んでいったのです。
鍼灸師として、非常にやりがいのある理想的な環境が整いつつありました。
しかし、そんな折、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、病院内に外部関係者が入ることが難しくなり、プロジェクトはやむなく一時休止となりました。
つづく≫ 〜科学と臨床をつなぐharipo式の挑戦⑤〜

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